第59回
(話題) 鍬形恵斎筆の「黒髪山縁起絵巻」と「江都名所図会」をめぐって
(要旨)
寛永寺に伝わる盆石の名品「黒髪山」とその縁起絵巻上下巻(スライド紹介)は、絵のあとに詞書(中村仏庵筆)が続き、巻末に楽翁筆紺地金泥書の写しを入れている点に特徴があり、まず「何の作為もなしに時が満ちて名品が世に現れる様」を物語っているとし、更に図中の人間を表現する手段としてオランダ画の影響がうかがわれれ、伝統的手法と遠近法などの新しい手法を混合駆使されている真・行・草の多様な筆法は、後の「一目絵図」に結実開花するものであると論じた。また、江都名所図会についてはY家本・福生本・T家本を対比して、Y家本が最も古い刷りであり、いずれも淡彩のグラデーションつまり、摺り師の際立った手腕が認められるが、図柄と俳句が合致しないところから色紙として使われたものであろうとし、また、これらの名所の真描も「一目絵図」の基となったと論じた。
黒髪山の最後の詞書は仏庵の筆か寫ヨの号を使い始めた時期と画題による使い分け、江都名所図会の俳句は果たして冠付か、摺り師の評価とその移り変わり、寫ヨの交友関係など熱心に意見が交わされた。