第160回
(話題)  幻燈から映画へ−転換期の映像メディア−
(要旨)
19世紀前半の写真の誕生、世紀末の映画の誕生は世界規模でイメージの伝播と共有をもたらした。それは複製性、伝播性、世界的影響力、西洋近代イメージの造形と普及、また西洋にとってもオリエンタリズムやエキゾティシズムの造形と普及、といった点で画期的だった。そのはざまで、いまは忘れられた存在の幻燈も、明治中期(1880年代〜90年代)には隆盛を迎えていた。
映像メディアの特質が、視覚像を中心にした表現や娯楽、あるいは知識の伝達(インフォーメーション)、コミュニケーション、教育等々にあるとすれば、さらに、複数者、集団、共同体での利用にあるとすれば、かつての幻燈にも映像メディアとしての大きな役割があった。
19世紀後半における西洋と日本の幻燈をとおして、その役割の相違と類似が比較され、映画誕生期から普及期にかけて映画のレパートリーがいかに幻燈のレパートリーを引き継いでいったかが発表された。
講師の著書である『幻燈の世紀:映画前夜の視覚文化史』(2002年)では、上記のほかに、近代の明るい人工照明の普及によって、あいまいなもの、あいまいな形、両義的存在が消えていくことを惜しむ心情も語られている。