第157回
(話題) もう一つの東京の近代住宅史:私論
(要旨)
まず、近代住宅史は間取りの変遷と近代化の過程を追うだけではなかったかという疑問が提示された。そして、全体をとらえるために、東京の実例に基づき6つの観点からの分析が発表された。
第1は江戸から続く住宅の系譜が現代につながっているという観点がある。例えば、武家住宅は明治以降も階級・格式を重んずる軍人や官吏等が住んだし、初期の郊外住宅は農村住宅が転換したものであった。また、長屋住宅は集合住宅・共同住宅の系譜のはじまりととらえることができる。
第2は住宅の文明開化とも言うべき、西洋建築様式との出逢いがある。このことによって、西洋様式住宅の直写や擬洋風住宅が出現し、接客空間が洋館(洋室)化していく。
第3の観点はデモクラシー思想による接客イメージの変化である。座敷の存在意義が失いはじめ、欧米近代住宅を直写する文化住宅が登場する。その実例が生活の洋風化を強調した平和博文化村の文化住宅であり、モダンデザイン化に徹した成城の朝日住宅である。
第4は都市生活のための住宅である。高密度住宅と耐震・耐火の鉄筋コンクリート造の都市住宅が出現する。この実例が同潤会アパートで、そこに革新性が認められる。
第5に田園生活のための住宅を考えると、計画的開発と乱開発、そして新しいタイプの家族で楽しめる庭となる。
第6は戦争と住宅についてである。国民住宅が建設され、住宅を量的に確保するために戦時規格を設けられ、規模と質の低下が容認されていった。
講師は、自ら東京の無名建築を訪れながら考えた「近代の住まいの歩み:私論」であると結ばれた。