第153回
(話題) 江戸の怪談と怪異空間
(要旨)
江戸の街に流布した怪談には、大きく分類すれば、世間話や怪異小説、芸能に属するものがある。そのうち、江戸の都市空間と直接関わるものとしては、世間話が挙げられる。当時の人々が、最もリアルに感じた怪談だと考えられる。これらの怪談は、日本庶民生活資料集成や日本随筆大成などに収録され、現代の私たちも追体験できる。このテーマについては、すでに、故・宮田登先生が、様々な機会に論じているが、具体的な都市空間との細かい対応については、再検討の余地が残されている。今回の報告では、それらを整理し直して発表された。
前半では、根岸鎮衛が筆録した『耳袋』を主な史料として、江戸の街のどの場所で、どのような怪異が起こったのかが紹介された。そして、『耳袋』をもとに、江戸の妖怪マップを作成してみると、一定の傾向が指摘できること、更に、その中でも頻発する武家屋敷の怪異について、具体的な事例が紹介された。
後半は、鈴木桃野が筆録した『反古のうらがき』の一節に記録された神楽坂の怪異について、関連史料から怪異の原因を推測され、場所をめぐる環境の変化や、怪異を感じる様々な状況が復原された。
いずれも、江戸末期の大都市、江戸の都市空間の土地利用や地形に深く関わっていて、江戸の怪談は、当時の人々が、当時の都市空間から受け取った感覚を良く伝えていると結論された。