第148回
(話題) 祭礼からみた都市空間の変容と地域コミュニティの形成−神田祭りを主な素材として−
(要旨)
都市祭礼は、都市の記憶を現代に甦らせる重要な存在であり、同時に現在も地域コミュニティの絆の役割を果たし続けている。
江戸町人地の祭礼の中心をなした山王祭・神田祭・天王祭にを担った町と祭礼ルートをみると幾つかの町に重複がみられ、江戸時代の都市祭礼は重層性をもっていたことが分かる。明治期になると神社と氏子域が一対一に対応した一元的関係に整理され、一方で、旧武家地に新市街地が形成されるとそれらを氏子域に組み込みながら新・旧住民が一体化した新たな祭礼組織が生成する。
神田祭では近代における祭礼ルートの経年変化の状況を復原することが可能である。祭礼ルートは、新市街地における町内会の成立と密接な関係を持ちながら稠密化した。また、関東大震災後の大正末から昭和初期にもっとも密度の高い巡行がなされたことが判明した。それは震災復興計画によって近代都市・東京の祭礼形態がこの時期に成立したこと示している。戦後はこうした祭礼形態は各町の町内祭礼に担われることなる。現在において、都心部の分断されたコミュニティを修復するために、祭礼は重要な役割を果たしている。
江戸・東京の代表的な祭礼である神田祭を主な素材として、近・現代都市の形成と祭礼空間の変容過程の関係が明らかにされ、また、祭礼がいかに地域コミュニティの形成に係わってきたのかが言及された。