第121回
(話題)  「江戸名所図会」と長谷川雪旦
(要旨)
天保年間に刊行された『江戸名所図会』は、民間の江戸の地誌としては最大規模を誇る。その編者は神田雉子町の名主斎藤月岑(げっしん)である。挿絵を手掛けた人物として知られているのは、江戸の絵師長谷川雪旦(1778〜1843年)である。しかし、雪旦ならびにその息子雪堤の生涯や作品の全貌は以外と知られていない。
そこで、まずフォーラムでは、この親子がどのような仕事をし、また何を描いたのか、主要な作品の紹介と2人の活躍を概観した。そして、月岑らとの交流のなかで、どのような視点と意図をもって『江戸名所図会』が編まれたのか、挿絵の分析や下絵の紹介などを通してその特徴が指摘された。
雪旦や雪堤が描いた挿絵は、19世紀の江戸の生活や文化を理解する重要な情報源であり、江戸に住む人々のアイデンティティーの確立や認識に大きな意味を持つ本であったことが検証された。さらに今回は『江戸名所図会』に関して未だ解明されていない事柄を提示され、今後の研究の可能性も考えてみた。