蔵書探訪・蔵書自慢 18
江戸東京博物館 土浦亀城旧蔵:建築図面・建築写真資料
「江戸東京博物館」は、この春、開館満15周年を迎えました。1982年(昭和57)に、博物館設立準備室での資料収集業務を開始してからは26年となります。それでも、各都道府県にある歴史系博物館としてはかなり後発の施設です。江戸から東京に至る都市における庶民生活史を展示することを目的としています。我我学芸員は、自嘲的に「きれいなものから、きたないものまで」と言っておりますが、現在は、50万点以上の多岐にわたるさまざまな資料を収蔵しています。
博物館のコレクションとしては、浮世絵等の絵画、古文書、生活民俗資料等が多数を占め、建築関係の資料については、全体から見ればわずかしかありません。しかし、本稿でご紹介する「土浦亀城旧蔵資料」は、江戸東京博物館において、初めての建築関係コレクションとなりました。
まず、江戸東京博物館と、建築家・土浦亀城氏の関係について説明します。
もともとは、都内に残る歴史的価値のある建造物を移築、保存する目的で設立された、「江戸東京たてもの園」(江戸東京博物館の分館にあたる東京都小金井市にある野外博物館)において、品川区内に現在まで残る1935年(昭和10)竣工の土浦亀城自邸を移築できないか、という検討が始まったことから、土浦氏とのご縁が始まりました。お元気だった頃、土浦氏が江戸東京たてもの園にお越しになり、「ぼくの家は坂に建っているから、平らなところではどう見せるのかな」とお話しになっています。その後、東京都の財政状況悪化のために、移築・復元事業そのものが凍結となってしまい、現在のところ移築は実現していません。
また、1993年(平成5)に江戸東京博物館が製作した、映像作品「初期モダニズムの住宅」では、土浦亀城自邸内において、土浦亀城・信ご夫妻がタリアセン時代のフランク・ロイド・ライトのことや、土浦亀城自邸竣工当時のことを詳細に語っており、今となってはとても貴重な映像資料となっています。この映像は、江戸東京博物館地下1階の映像ライブラリーにてご覧いただけます。
それでは「土浦亀城旧蔵:建築図面、建築写真コレクション」についてご紹介いたします。
土浦亀城氏は1897年(明治30)茨城県水戸市の生まれ。1919年(大正9)東京帝国大学建築学科に入学。大学時代に帝国ホテルの建設現場でフランク・ロイド・ライトと知り合います。大学を卒業後、アメリカに渡りフランク・ロイド・ライトの事務所で約3年間修業を重ねました。妻・信夫人は、大正デモクラシーで有名な憲法学者吉野作造の長女。東京帝国大学で教鞭を執っていた父上の縁で土浦亀城氏と知り合い結婚。夫婦で渡米した際には、信氏もライトの下で建築の勉強を積みました。帰国後も、亀城氏と共同で住宅の設計にあたった時期もありました。
その後、土浦亀城建築事務所を設立し、昭和60年代に事務所を閉鎖するまでの約40年間にわたって設計活動を行ないました。土浦亀城氏は、1997年(平成9)1月に99歳で亡くなりました。
江戸東京博物館では、土浦亀城氏が自邸で大切に保存してきた建築図面類2500点以上を平成14年度、平成15年度の2年にわたって、ご寄贈いただきました。これらの図面は、美濃紙に鉛筆で書かれた原図や、トレーシングペーパーに墨入れをしたもの、青焼き図面、各種仕様書類や、当時の事務所内での連絡調整の経過を知ることができるメモなどさまざまな資料が含まれています。
一番古い図面は、アメリカから帰国した1926年(大正15)7月に設計された住宅、山縣邸のものです。アメリカ帰国直後のこの作品は、ライトのプレーリーハウスのようなイメージの切妻屋根を持った住宅です。
また、江戸東京博物館と土浦亀城氏のご縁の始まりとなった、土浦亀城自邸の図面類も大変貴重な資料です。
2006年には、これらの図面を紹介した展覧会「昭和モダニズムとバウハウス−建築家土浦亀城を中心に」という展覧会を開催し、多くのみなさまにご覧いただくことができました。しかし、江戸東京博物館の常設展示室では、恒常的にご覧いただける機会を設けることはなかなか難しいため、研究者の方々の利便性を考え、第二原図を整備しています。
江戸東京博物館では、「特別利用申請」という制度があり、第二原図は、「特別利用申請書」を提出していただければ、ご覧いただくことができます。ぜひ多くの方に知っていだたきたく、ご紹介させていただきます。
これらの図面資料を整理していた時間は、わたくしにとっても大変楽しく、非常に勉強になりました。そしてそこに含まれている情報の多さに圧倒され、一人でも多くの研究者の方に知っていただくことが、博物館としての大きな役割だと考えています。
これからも、建築関係の資料収集には力を入れていきたいと考えています。多くのみなさまからご協力をいただきたく、この場をお借りしてお願い申し上げます。
東京都江戸東京博物館
〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1
最寄駅:JR総武線・都営地下鉄大江戸線「両国駅」
TEL.03−3626-9974
URL http://www.edo-tokyo-museum.or.jp
開館時間:9:30〜17:30(土曜日のみ19:30まで)
休館日:毎週月曜日・年末年始(12月28日〜1月1日)
早川 典子 (はやかわ・のりこ)
(「すまいろん」08年夏号転載)