蔵書探訪・蔵書自慢 17
大成建設ギャルリータイセイ ル・コルビュジエ・コレクション

大成建設が運営する小さな美術館「ギャルリー・タイセイ」のコレクションについてご紹介したい。施設の性格上、コレクションの主体はル・コルビュジエの美術作品であるため、本稿の趣旨にそぐわないかもしれないが、彼が手がけた作品の全ては彼の建築へと繋がる資料としても側面も持っているため、本稿でご紹介することをご了解いただきたい。

ル・コルビュジエ Le Corbusier 1887〜1965
言うまでもなく20世紀を代表する建築の巨人であるが、同時に彼は絵画を描き、彫刻をつくり、著書を出版するなど、実に多彩な活動を行った。
1920年代には「ピュリスム」の絵画を描き、新しい時代を開く建築への提言を繰り返した。「サヴォア邸」は住宅建築の傑作として知られている。30年代には「現代建築国際会議」の主唱者として世界の建築をリードし、超高層ビルや都市計画を打ち出した。また、逞しく豊満な女性の姿を多く絵画に残している。戦後は、独自の尺度を用いた集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」や、自在な造形表現の「ロンシャンの礼拝堂」、チャンディガール(インド)での迫力ある公共建築群などによって、大きな衝撃を与えた。
また、彼は日本の近代建築に多大な影響を及ぼした。前川國男、坂倉準三、吉阪隆正らが彼のアトリエで働き、彼らが協力した「国立西洋美術館」は日本で唯一のル・コルビュジエ作品として、先ごろ国の重要文化財指定を受けた。現在、ル・コルビュジエ財団(パリ)が中心となり、彼の建築と都市計画22件をユネスコの世界遺産に登録するべく準備が進められ、「国立西洋美術館」もこのリストに加えられている。

コレクションの経緯
大成建設のコレクションの核となっているのは、ル・コルビュジエの友人でありコレクターであったテオドール・アーレンバーグ氏旧蔵の作品である。コレクションを一括して収蔵し、死蔵させずに公開できるところに譲りたいという氏の意向を受けて、1990年に購入するはこびとなった。
大成建設がル・コルビュジエの作品を収集しているのは、単に日本に影響を及ぼした建築家の作品だからというだけでなく、人が幸せになる建築をつくるという彼の建築思想が大成建設の経営理念に合致しているからであり、文化を通じた社会貢献を継続していこうという意図からである。

コレクションの特徴
大成建設のル・コルビュジエ・コレクションはアーレンバーグ氏旧蔵の素描、コラージュに始まり、その後、油彩、版画集、写真、文献資料などの収集を行っている。現在、その数は素描、コラージュ類190点、油彩13点、版画集6集、彫刻1点、タピスリー1点、手帖1冊であり、他に写真家ルシアン・エルヴェがル・コルビュジエの人と建築を撮影した写真をはじめ、写真130点を収蔵している。
ル・コルビュジエの美術作品は、ル・コルビュジエ財団、ル・コルビュジエ・センター(チューリッヒ)が多くを所蔵しているが、大成建設のコレクションはこれらに次ぐ規模である。
建築関係の資料については、大部分をル・コルビュジエ財団が所蔵しているため、入手することは非常に難しい。というのは、彼は生前、自分が描いた図面、建築スケッチ類が外部に流出しないように厳しく管理していたので、彼の没後、財産を引き継いだル・コルビュジエ財団以外から、資料が出てくることは非常に限定的なのである。

文献資料
ル・コルビュジエは47冊の著書を出版している。殆んどがフランス語で書かれたが、英語、ドイツ語、イタリア語、スペイン語、日本語などに翻訳された。日本では25冊の著書が翻訳され、没後40年以上が経った今でも、新たな翻訳や改訳が出版されている。
ギャルリー・タイセイでは、こうしたル・コルビュジエによる著書だけでなく、ル・コルビュジエについての研究書、雑誌、展覧会カタログなどの資料を極力収集しようとしているが、ル・コルビュジエについての文献は現在も毎年数多く出版され、近年ではファッション雑誌などでも特集が組まれるほどであり、これらを網羅するのは難しい。
現在、ギャルリー・タイセイで所蔵しているル・コルビュジエに関する文献資料は約200冊である。

コレクションの目玉
美術作品以外の収蔵品の中から目玉となるものを数点挙げておきたい。

  • 『レスプリ・ヌーヴォー』 1920〜25年 全28巻
    ル・コルビュジエと友人たちが発行していた総合芸術雑誌。建築に対する彼の提言は注目を集めた。先鋭的な芸術家たちをはじめ、多くの執筆陣が多分野についてエッセイを寄せた。
  • 『ザルブラの色見本帳』 1932年版、1959年版
    スイスの壁紙メーカー、ザルブラ社からの依頼で製作した色見本帳。色の組み合わせには名前が付けられている。彼の色彩感覚をつかむ上で非常に重要。
  • 『手帖』 1953年1月〜5月
    ル・コルビュジエはいつも小さな手帖を携帯し、スケッチし、思いついた言葉を書き残した。多くを財団が所蔵しているが、所在が分からない手帖がまだまだ存在する。この手帖は行方不明となっていた中の1冊。
  • 『直角の詩』 1955年 リトグラフ
    版画作品。350部限定。19章に分けられ、難解な詩とそれに添えられた挿図によって構成されている。ル・コルビュジエの後期の建築に対する考え方が詩という形をとって謳われている。
  • 『ル・コルビュジエ プランズ』 2005年〜 DVD
    ル・コルビュジエ財団所蔵のエスキス、スケッチ、図面などの建築資料全33,000点を新規に撮影し、デジタルデータ化したアーカイブ。克明な画面が鮮明な色で再現され、今までの図面集では読み取れなかったような細かい書き込みまで解読できる。

公開
ル・コルビュジエ生誕120周年の2007年に、ギャルリー・タイセイは開設15周年を迎えることができた。
ギャルリー・タイセイでは、所蔵する美術作品の一般公開を軸に、ル・コルビュジエの業績をさまざまな切り口から捉えた展覧会活動を続けているが、文献資料の公開は行っていない。その理由は、資料が古く状態が悪いため、また閲覧スペースがないためである。ただし、ル・コルビュジエを研究されている方であれば、ご相談に応じることは可能である。
視点を変えて作品に触れるたびに、ル・コルビュジエは新たな面を見せてくれる。さまざまな表現方法を駆使して、自分の世界を構築していった彼をより深く理解するためには、著書をはじめあらゆる分野の作品を精査することが必要である。
ギャルリー・タイセイでは、今後もル・コルビュジエに関する資料の収集を続け、展覧会を通して、彼の業績を広く伝えていきたいと思っている。

大成建設ギャルリー・タイセイ
〒163−0606 東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル17F
TEL.03−5381−5510 E-mail galerie*pub.taisei.co.jp  お問合せ時には「*」を「@」に変えてください。
URL http://www.taisei.co.jp/galerie/index.html
開館日:月〜金 10時〜17時 (土日祝日、展示替え期間は休館。お問合せください。)
入場料:無料

林 美佐 (はやし・みさ)
(「すまいろん」08年春号転載)